幸福の習慣

 

幸福の習慣

幸福の習慣

  • 作者: トム・ラス,ジム・ハーター,森川里美
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2011/10/16
  • メディア: 単行本
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どんな習慣や行動が幸福度を高めるのかということを解説した本です。

本書の内容は、世論調査会社のギャラップが行っている幸福に関する調査の結果をベースに書かれています。
ギャラップ社の調査は、世界150か国・無作為に抽出した1000人以上(合計15万人以上)を対象に、数百問にわたる質問を通して「人生全体をどのように評価しているのか」についてデータを取っているそうです。

書かれている内容はどの話も根拠となる資料をしっかり示していて信頼感があります。巻末の参考文献リストも充実しており、引用した資料・論文についての簡単な解説までついています。

本書のいちばん良かった点は、学術的な内容にもかかわらずとても読みやすく書かれていた点です。通俗心理学の本のようにサクサク読めます。統計的・学問的な話をここまで平坦に読みやすく書けるのは素晴らしいと思いました。

ちょっと注意が必要かなと思った点は、

①遺伝について何も書かれておらず、環境的な要素にのみ焦点が絞られています。

②(ある意味で題名どおりですが)出典としてギャラップ社の調査が多いです。幸福度についての調査は多いので、もっと他の文献の話も取り入れてくれてもいい気がしました。

③ギャラップ調査の詳細や結果が書かれていないのが残念でした。詳細が書かれていないので、なぜ著者が5項目を選んだのか読者からすると不明です。巻末資料も充実しているので、どんな手順を踏んでどんな結果が出たのかを書いてくれても良かったのではと思いました。

 

 

本書では、人の幸福を構成する要素として、「仕事の幸福」「人間関係の幸福」「経済的な幸福」「身体的な幸福」「地域社会の幸福」の5項目を挙げています。

ウェルビーイングとはこの5つの要素が一体になった状態であり、1つの要素だけ突出してうまくいっているとしても日々幸せを感じる生活は手に入らない、とのことです。

 

① 仕事の幸福

本書で使われている「仕事」とは、生計を立てるためだけの仕事ではなく、ボランティア活動、子育て、勉強などを含む一日の大半の時間を費やしていること、との定義です。

 

仕事が重要な証拠としては・・・

・仕事は最も多くの時間を費やす活動であるため5つの要素の中でも最も重要。

・仕事の幸福度が高い人は、そうでない人に比べて「自分はすばらしい人生を送っている」と思う割合が2倍も高い。(ギャラップ社の調査)

・「仕事に熱意を持っている人」は、平日も休日も幸福度は同じ。一方「仕事に熱意を感じていない人」は、平日は幸福度も物事への興味関心度も劇的に低く、ストレスレベルは異常に高くなっていた。

・13万人の被験者を数十年間にわたって追跡調査した研究の結果、結婚や離婚、子どもの誕生、短期の失業、長期の失業、配偶者の死など、さまざまな出来事の中で、幸福に最も大きな影響を与える出来事は「長期にわたる失業状態」だった。

 

また、仕事では強みを活かすことの重要性が書かれています。

・自分の強みを活かして仕事をしている人は、弱みに意識を向けて仕事をしている人に比べて、仕事に熱意を感じて楽しんでいる割合は6倍、人生を心から楽しんでいる割合は3倍という結果。(ギャラップ社の調査)

・仕事の幸福度が高く、自分の強みを活かし働いていた人たちは、少なくとも1日8時間働くことができる。仕事の幸福度が低く、自分の強みを仕事に活かしていない人たちは、働き始めて4時間後には急速にエネルギーが低下してしまった。

 

 

② 人間関係の幸福

人間関係が重要な証拠としては・・・

・生活活動調査によると、一緒にいると幸福度が高い人は友だち。配偶者、子ども、などは一人でいるよりも幸福度が高い。上司や同僚は一人よりも不快度が高い。

・子どもと遊ぶ、スポーツイベントへの参加、パーティーに行く、ワークショップ、宗教行事への参加、などが最も楽しい活動10にランクインしている。お茶やお酒を飲む、スポーツや運動をする、なども人との関わりが必要なイベントかもしれない。

・人と接する時間の増加に伴って幸福感が上がり、ストレスや不安は小さくなる。ただし、6時間を超えると大きな変化がなくなる。
また、内向的な人でもコミュニケーションの時間を少しでも長く持つと、人生の全体的な質を高める効果があることが明らかになっている。

・職場の1日を通じて起こるどんな瞬間のどんな経験が幸福とエンゲージメントの高さにつながるかというギャラップ社の調査によると、最も重要な要素はその人が何をしているかではなくだれと一緒にいるかだった。

・心を分かち合える親友が1人増えるたびに、日々の生活の豊かさが増す。ギャラップ者の調査によると、親友が3,4人以上いる人は、親友が1人もいない人と比べて、健康状態や幸福度、仕事への熱意とコミットメントがより高い。

 

この章ではハーバード大学の研究である幸福の感染が大きく取り上げられています(この研究の詳細は「つながり」という本に詳しく書かれています)。

・家族や友人が幸せを感じていると幸せを感じる可能性が15%高まる。あなたの友達の友達が幸福だと幸福度は10%高まる。あなたの友達の友達の友達が幸福だと幸福度は6%向上する可能性がある。(ただし不幸も伝染する)
6%という数字は小さく見えるが、ハーバード大学の研究では年収が1万ドル増えても幸福度は2%しか増えないとのこと。

・ネットワークの影響力は、喫煙や体重などの生活習慣や行動パターンにも及ぶ。

だれかが健康や幸福にプラスになるよう行動すると、周囲の健康や幸福を高め、その効果はまた本人自身に返ってくる。自分の周りの人々のために何かすることは、自分自身の幸福をより高めるために非常に効果的である。

 

そのほか、人間関係が健康に及ぼす影響の事例もいくつか紹介されています。

 

 

③経済的な幸福 

お金が重要な証拠としては・・・

・各国1人あたりのGDPと幸福度には明らかに密接な相関関係がある。

・スティーブンソンとウォルファーの研究結果の報告では、年収が2倍になるごとに10点満点中0.84点が全体的な幸福度に加算されることが明らかになっている。「豊かな国では主観的な幸福度がそれ以上上がらないという”飽和点”が存在することを証明することはない」


幸せになるお金の使い方

・自分のためにお金を使った人よりも、だれかのためにお金を使った人の方が幸福度は大きく高まる、という研究がいくつか紹介されている。

・物ではなく、経験や思い出にお金を使った方が幸福は長時間持続する、という研究がある。年収別にみると、年収が2万5000ドル以上の人は経験に出費した方が幸福度は2~3倍に高くなった、とのこと。

 

その他のメモ

・絶対的な収入より、他人と比較した相対的な収入が影響を与えるという研究がある。日々の仕事が充実していて、周囲と強い人間関係を築くことで、他人と比較することによるジレンマから逃れることができる。

・(ギャラップの)インタビューの分析の結果、経済的な幸福度が高い人の大半は、世間一般でいうところのお金持ちではない。年収や資産が少なくても、自分の収入と支出を自分で決めてコントロールし「何か欲しいものがあったら買えるし、やりたいことがあったらできる」という安心感を感じている人は、幸福度が高い。

 

 

④身体的な幸福

食事、運動、睡眠といったことについて書かれていますが、健康とのかかわりについての話が多く、運動を除いて幸福との直接的な話は少ないです。

 

身体的な幸福が重要な証拠としては・・・

・巻末の最も楽しくない活動10のスコアのトップは「個人的な病気の治療」で、医療行為を受けるも4位にランクインしている。

・週に6日までは、運動する日を増やすほど元気が出て、ストレスは減り、幸福度は高まる。

 

運動についてのメモ

・たった20分間の軽い運動でも2時間後から12時間後にいたるまで、いつもよりはるかによい気分で過ごせる。

・疲れを解消する方法を70種類以上選んで実験し、総合的に分析した結果、疲れを解消するためには、疲労回復の薬より運動の方がはるかに効果的だということが明らかになった。

・定期的に運動することが習慣化している人は、運動する理由として、身体を動かすと気分も見た目もよくなること、そして自分に自信が持てるようになることを挙げている。

 

睡眠についてのメモ
・ギャラップの調査によると、眠る前はイライラしていた人でも、熟睡できれば翌日は朝から夜まで平均以上によい気分になる。反対に、眠るまでは調子がよかった人でも、熟睡できないと翌日の気分は平均レベルまで低下しイライラしがちになる。

・健康、記憶、美容、幸福度などあらゆる観点から見て、一晩で7、8時間の睡眠をとる必要がある。
 

 

⑤地域社会の幸福 

地域社会と人生の満足度の直接的な関連の記述は少ないです。どちらかというと利他的行動と幸福度についての記述が多いです。

 

利他的行動と幸福についての話はいくつか

・献血をした人々は、献血の前よりも献血のあとの方が気分が高揚したと回答している。

・地域社会の幸福度が非常に高い人と平均レベルにある人の最大の違いは、自分が住む地域社会にお返しをしているかどうかという点だった。

・脳内fMRIスキャンを使って行った研究では、お金を手に入れたとき活性化する脳の領域は、お金を与えたときにはさらに明るく輝くことが発見された。

・ギャラップ社がボランティアをテーマに2万3000人以上の人たちを対象に行った調査では10人中9人が、ボランティアで何か人の役に立つことをすることで「気持ちが高揚した」と答えている。

 

”人のために何かをした時、私たちは自分に「変化を起こせる力」があると実感します。さらに、周囲によい影響を与えたことで自信が高まります。同時に、だれか他の人のために行動すると、自分と社会がつながっていることが感じられます。
何もせずにいると「自分は何者か、自分は周囲にどう思われているのか」など、自分のことで頭がいっぱいになって行き詰ってしまう傾向があります。でも、だれかのために役立つ行動をして社会とつながりができると、自己中心的な世界に風穴が開き、重苦しい気持ちから解放されるのです。”

 

 

 ○短期的利益と長期的利益

どうすれば目先の欲望に流されずに、よりよい日々の選択をすることができるか。

・短期的利益と長期的利益を一体化させる
ファーストフードでオーダーする前に食べたあとに何が起こるか考えてみる。運動をさぼりたくなったとき、運動後に何時間も前向きないい気分が続くという事実を思い出してみる。

・ネットワークの力を使う
だれかと一緒ならやる気が出る。1人では挫折してしまいがちな行動も社会的なかかわりによって成功する可能性が高まる。

・ポジティブな初期設定を利用する。
残ったお金を貯金するのではなく最初から天引きにしておく、一緒にウォーキングする仲間を作り誘いに来てもらう、etc

 

”最初から強い意志で、人生によいことばかりを選択できる人はほとんどいません。自分の弱さを補うサポートシステムを設定することで、よりよい決断をしやすくなります。
それでも、今日はよい日にできたけど、翌日は散々でまた元に戻ってしまった、そんなこともあるでしょう。それでも、気持ちをリセットしてまた小さな決断を積み重ねていく、それでいいのです。
一瞬一瞬の小さな決断の積み重ねが1日を作ります。その1日1日の積み重ねがより良い人生へとつながっていくのです。”