ポジティブ病の国、アメリカ

 

ポジティブ病の国、アメリカ

ポジティブ病の国、アメリカ

 

アメリカで一般的になっているポジティブ・シンキングや楽観主義を痛烈に批判した本です。

第1章では、著者が乳がんになったときの体験から、ポジティブな態度のみが賞賛され、ネガティブな感情を抑圧しなければならないことへの違和感や不満が書かれています。乳がんになる前よりも幸せだ、人生を考えなおすきっかけをくれた、乳がんは感謝すべき贈り物だ、といった話は感動的ですが、それが義務になってしまうのは確かにきついかなと思いました。

また、否定的な論文も出ているにもかかわらず、楽観的な態度には延命効果があることが当然と信じられている点も批判しています。この話があまりにも広く信じられているため、ポジティブシンキングが不十分なせいでがんが進行したり治癒しないと自分を責めるようになる人もいるとのこと。これもひどい話です。

第2章は、コーチングや自己啓発についてです。著者は、ポジティブな態度と成功には(ポジティブな人は受け入れられやすいなど)自己予言的な面があるとしつつも、心の持ち方だけではどうにもならない現実があるともっともな指摘をしています。また、「引き寄せの法則」など極端なポジティブシンキングはもはや魔術と変わらないも言っています。

第3章以下は、アメリカにおけるポジティブシンキングの歴史、ビジネスの世界や宗教の世界でのポジティブシンキングの現状、新たに登場したポジティブ心理学について、経済とポジティブシンキング、といった話が続きます。

最終章では、ポジティブ・シンキングに代わる方法として、防衛的悲観主義や批判的思考ありのままに見る現実主義の大切さなどに触れていますが、それほど詳しい解説はありませんでした。

ポジティブとがんの生存率など資料を引用している部分もありますが、基本的には主観的な内容の本です。なので、もっともだと思える指摘(ポジティブ・シンキングが義務になってしまっていること、望めば何でもかなうといった非現実的な楽観主義、すべてを個人の心の持ち方のせいにして経済的な不平等などの問題を無視すること)もありましたが、資本主義はもう行き詰っているといった思いつきのような批判も多かったです。

ポジティブ心理学についても、相関関係と因果関係の違い、不十分な証拠を確実な証拠のように言う、美徳の規準があいまい、など納得のいく指摘もあるのですが、セリグマンについての個人的な批判など本筋と関係ない部分の話が多かったです。
ポジティブ心理学にさまざまな問題があるのは確かだと思いますが、幸福度の調査は世界各国で20年30年にわたって行われており、それなりの研究結果が蓄積されているわけです。それに対する批判としてはあまり建設的でない話が多かったように思います。

文量もけっこう多いですし、根拠にもとづく話が書かれているわけではないので、ちょっとどうかなと感じる部分もありました。ただ、楽観主義やポジティブシンキングについては無条件に肯定している本が多いなかで、このように全面的に批判している本は貴重ではあると思います。バランスを取るために読むのもいいのではという感想です。